組織内サイレントマイノリティ

声を上げられない組織内少数派

終身雇用終焉説を考える

日本の経済界を代表する方々の終身雇用に関する発言が話題になっています。中西・経団連会長は「経済界は終身雇用なんてもう守れないと思っている」と発言。日本を代表する企業であるトヨタの豊田社長は、終身雇用について「雇用を続けている企業にインセンティブがあまりない」などと述べ、今のままでは継続は難しいと示しました。

「作れば売れる時代」であるからこその終身雇用制度
そこには「作れば売れる時代」から「売れるものを創る時代」に変化したことが大きな要因であると思われます。1970年以前、5年以上続くヒット商品は60%ありました。しかし、2000年以降は、5年以上続くヒット商品は5%しかありません。むしろ、ヒットする期間が1年未満の商品は20%近くになるのです。これは商品ライフサイクルが早くなっているということです。
こういった環境下では、オペレーションを効率的に行い、良い製品を世に送り出していけばよかった今までと違い、イノベーションが求められます。そこに対応できない産業・企業は成熟期や衰退期に入ってしまうと言われていますし、残念ながら実際にそのような状態に陥った企業も多いように思われます。

「作れば売れる時代」では、より早く正確に作ることが重要でした。より早く正確に作るためには、長期間掛けて一日一日しっかり手を動かし、技術力を高めることが求められます。そのために現場では、一人ひとりのスキル開発を通して仕事(技能)を習熟し、技術力を高める努力を行っていました。「作れば売れる」ため、仕事に習熟するスピード(質)を上げ、たくさんの人(量)が習熟することで生産性が高まります。

「作れば売れる時代」の人事は「真っ白なキャンパス状態」のような何もわからない・知らない素直な人材を一括に採用します。4月に同時入社させ新人研修時から競争を煽り競わせます。そして仕事習熟度合いで優劣をつけてきました。
仕事習熟度を高めるためには、徒弟制が非常に有効であったことから、定期異動で様々な組織や職場、業務を経験させ、「総合的に評判のよい人」を親方として選びました。優秀な親方は、弟子の技術力を高めることができたので、毎年企業の生産性は上がりました。よって弟子でも毎年給与ベースはアップし、定年まで無事勤め上げることができました。こういった製造現場式のやり方をホワイトカラーの職場にも持ち込んで適用し、組織を運営してきたのです。
このようなことから新卒一括採用して定年まで雇用する終身雇用制度は有効かつ機能していました。

「売れるものを創る時代」へ移行して求められる人材は大きく変わった
しかし「売れるものを創る時代」は、「独創的で、斬新で画期的なアイデア」から新しいサービスや商品、新規事業を創出することです。一例ですが、社会や消費者にとって「不便」「不満」「不安」なことに着目しそれを解決することから始まります。社会や消費者の「不便」「不満」「不安」における様々な角度からの問題発見や、その解決のための仮説構築・プランニング作りが組織や働く人に問われます。

「売れるものを創る時代」の人事は、「様々な思いや価値観を持つ専門人材」の多様性を引き出すことが重要です。そのためには「専門性」や「思い」を持った人材の採用から始まります。そこには年齢・性別など関係ありません。そうなると新卒一括採用の意味が以前ほど強くなくなります。
また、あらゆる人達が参加することによって多様性が生まれ、「独創的で、斬新で画期的なアイデア」が創出する可能性が高まります。企業が行うことは組織内の人材に活躍するための場の提供と適材適所の配置、そして仕事に対する期待役割の提示ならびにフィードバックです。個の創意工夫力を高め組織力につなげていくことと、個のエンプロイアビリティ力(雇用されうる能力)を高めることに繋げていくが企業には求められます。

では今後どのような働き方やキャリアの構築の在り方が問われてくるのか
働く人には、自身の専門性を高め、将来を予測し、自身の能力と社会(企業)から求められる役割とを最適化していくことが求められます。よって主体的に行動し、自らオーナーシップを持ってキャリア構築に取り組むこと。そして一度しかない人生において、自分の意志・判断に基づいて行動すること。また一生涯、高度な専門能力の獲得に向けて、たゆみなく学び内省するなどの努力を重ねることです。
そのようにして高い専門領域の知見を持った上で、違った専門性をバックヤードに持つ人達を巻き込み、「違い」を尊重することが新しいサービスや商品、新規事業を創出することになります。
そのためには、様々な人達と積極的に議論できる環境を作ることが求められます。また働く人は自己決定と自己責任を持って仕事にコミットし取り組み、成長し続けることが求められます。

「作れば売れる時代」から「売れるものを創る時代」では求められる人材像や役割が異なります。以前は「雇用」が安定かつ生涯会社に面倒を見てもらえました。今後は「売れるものを創る時代」において事業ドメインや経営戦略の変更、そしてAIなどによって今やっている仕事がある日突然なくなることが予想されます。「雇用」を守ろうとするのではなく、自分の専門領域の見直しからの学び直しや転職を見据えるなど「キャリア」を創っていかなければなりません。そういった時代に「キャリア」を安定させることが大切です。自身のキャリアにオーナーシップを持って主体的に仕事に取組み、時代の変化に合わせて変幻自在に自分を変えて対応していくことが求められてくるのです。

 

 

 

 

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